jamバンドWEB小説

Music Maker MX2 特別限定版 jamバンド
第3話

 屋台はどこも盛況だった。柵で囲われたテニスコート内にずらりと焼きそば、フランクフルト、わたがし、フライドポテト、かき氷やクレープといったおなじみのメニューの屋台が並んでいる。
 リズムが目をつけていたのは二年生のクラスがやっているお好み焼き屋の五段のせスペシャルモダン焼きだった。
一日十個の数量限定だとビラに書いてあったが、息を切らしたリズムがたどり着いた時には最後の一個がかろうじて残っていた。

「やったー! それちょーだい! ……ニョロ!」
「ありがとうございまーす!」

 威勢のいい返事の男子生徒にお金を渡し、包んでもらうのを待つ。その頃になってカナが追いついて、
「……出遅れた」
 と若干肩を落として言うので、半分こしよう、と提案したらこくりとうなずいた。
スペシャルモダン焼きにはリズムの好きなエビとカニが入っているので、どうしても逃すわけにはいかなかったのだ。

「お待たせしました!」
「どうもニョロ!」
 パックからはみ出さんばかりにぎゅうぎゅうに詰まっているモダン焼きからは濃いソースのにおいが漂い、さっき部室でお菓子を食べたばかりだけれども胃袋を刺激した。

「ついでに他にも買い込むニョロ! カナちゃん何が食べたいニョロ?」
「………肉」
 ボソリと言って、カナがフランクフルトの屋台へ向かう。
数本を買い込み、お好きにどうぞ、と置いてあるケチャップとマスタードを盛大に掛けて、カナは満足気にリズムに差し出した。

「カナちゃんワイルドだニョロ〜」
「……辛いの、好き」
「わかるニョロ。大冒険の味がするニョロ」
「………目玉が、飛び出る」
「それはちょっと冒険し過ぎかな!?」

 さらにいくつか目についたものを買い求めて、二人はフリースペースになっている校庭の隅のテーブルが集められている一角へ腰を下ろした。
昼時からはやや遅れた時刻だけれども、出し物の順番の関係か、意外に人が多く、テーブルはほとんどが生徒で埋め尽くされていた。
ただし忍者やチアリーダー、スーパーマンやクマ、犬、サンドイッチマン、などなどその格好は多種多様ではあったけれど。

「ふぃぃ、何とか座れたニョロ。さあ食べるニョロ!」
「……いただきます」

 パキリと割った割り箸を片手に、もぐもぐと口に詰め込んでいく。
かなりの量を買ったつもりだったけれど、カナと二人にもかかわらず十数分後にはあっさり空のトレーが山と積まれていた。
ステージ前の最後の練習だったから、思っていたよりも集中して体力を使っていたらしい。
満腹満腹、とふくらんだおなかを撫でていると、カナが不意に立ち上がった。

「カナちゃんまだ何か食べるニョロ!?」
 カナは小さく首を横に振って、おみやげ、と一言言うと幽霊のような足取りで屋台の方へ行き、すぐに手に白いふわふわしたものを持って戻ってきた。わたがしだ。
「それがおみやげニョロ?」
「………そう」
「………もしかしてマルちゃんあて?」
「………そう」

 割り箸の先にある白いわたあめを揺らして、カナはどことなく楽しげにうなずく。
表情は変わらないけれど、声が少し弾んでいる。三年もいっしょにいるから、すこしだけわかる。
 へええ、とリズムは間延びした声を上げて、そのわたがしをながめた。
わたがしはふわふわと丸い。丸いもの好きのマリーならたしかによろこぶだろう。
ただし、カナから、というのが少々ネックではないかという気はする。
 詳しいことはよくわからないけれども、どうも家同士の確執でもあるのか、マリーはやたらとカナを敵視しているのだ。
かといってカナの方は全く気にしていない。というより気付いている様子がない。
だからおみやげなど買えるのだ。

「カナちゃんは大物だねえ。……ニョロ」
「……そう、かな。よくわからない。ニョロ」
 リズムの真似をしながらカナは首を傾げ、そっちは、とリズムに訊ねた。
「え、なに?」
「……おみやげ」
「……誰に?」
「………カノン」

 その名前を出されると少し困って、リズムは考えるふりをして目をそらした。
カナはそれ以上は何も云わず、ペットボトルのお茶を傾けて喉を湿らせている。
 気付いているのかもしれない。リズムは腕組みして背を反らせながら、晴れ渡った空を仰ぐ。
 自分といっしょにいるとまたカノンが気を遣ってしまう。
そう思って飛び出してきたのだけれど、これはこれで失敗だったかもしれない。
カノンは何かあるとすぐに自分のせいだと思い込んで自分を責めてしまう。
リズムが気を回して逆効果だったことだって、今までに何度もあった。

 おねえちゃんは、何でもうまく出来るもんね。カノンがそうやってさびしげに笑うところを、幾度となく見てきた。
何でもできるわけじゃないよ、と答えられなくなったのはいつからだろう。
どうやったら上手くいくのだろう。どうやっていたら、上手くいったのだろう。
 リズムは自分が天才ではないことを、こういう時に強く感じる。
だって本当に天才なら、きっとこんなことだって上手にこなせるはずだ。
大好きな妹を困らせたり悲しめたりしないはずだ。

 運動場のにぎわいに負けずと校舎からもいろいろなざわめきが聞こえてくる。
その中の一つに紛れているだろう妹のことを思ってリズムは耳をすませてみたけれど、当たり前のようにその声は聞こえるはずもなかった。




※このお話はサ●エさん時空的な世界のお話です。時間系列は深く考えずにお楽しみください。